実質利回りとは何か。老後の試算で名目の数字を使ってはいけない理由
最初に老後資金を計算したときは、運用利回りを5%にしていました。S&P500の過去の平均を見ると、そのくらいなら現実的だと思ったからです。
その頃は、インフレをほとんど考えていませんでした。最近になって食品の値上がりを身近に感じ、円安も続きました。資産の数字だけ増えても、同じ金額で買えるものが減っていたら意味が違います。
30年後の3,000万円は、今の3,000万円ではありません。物価が上がっていれば、同じ金額で買えるものは減ります。だから老後の試算は、最初からインフレを引いた後の数字で組むべきだと考えています。

名目と実質
実質リターンは、名目リターンから物価上昇の影響を除いたものです。
ざっくり考えるなら「名目利回り-インフレ率」で構いません。厳密には、次の式になります。
(1+名目利回り)÷(1+インフレ率)-1
たとえば名目10%、インフレ3%なら、単純な引き算では7%です。式に入れると実質は約6.8%になります。1年だけなら小さな差でも、老後まで何十年も計算すると無視しにくくなります。
S&P500の過去データを見ても、どこからどこまでを切り取るかで平均は変わります。過去の数字は目安にはなりますが、将来ずっと同じ利回りになるとは限りません。
老後の試算で知りたいのは「30年後にいくら持っているか」ではなく「30年後にどれだけ買えるか」のはずです。それなら実質で計算して、金額も今の価値のまま読む方が素直だと思います。
当サイトのシミュレーターが実質利回りで計算しているのは、この理由からです。表示される金額はすべて今の価値になっています。
円建ての数字には為替が混ざっている
もう一つ、注意して見るようになったのが為替です。
会社の企業型DCを確認すると、円安が進んだ時期に含み益が増えていました。うれしい反面、投資先そのものの値上がりと、円安で円換算額が増えた分が混ざっています。
ドル建て資産は、同じ値段でも円安なら円で見た評価額が増え、円高なら減ります。円安で増えた期間の成績を、そのまま今後何十年にも延ばすのは危ないと思いました。為替が反対へ動けば、今度は円建ての成績を押し下げます。
3つのプリセットの根拠
シミュレーターには悲観1%、リアル3%、楽観5%の3つを置いています。それぞれの根拠は次の通りです。
| プリセット | 実質利回り | 置いた理由 |
|---|---|---|
| 悲観 | 1% | 低成長や不調な時期が長く続く想定 |
| リアル | 3% | 自分の計画で中心に使う数字 |
| 楽観 | 5% | 株式の好調が長く続いた場合の想定 |
この3つは将来の予想ではなく、計画がどこまで耐えられるかを見るための幅です。自分用にはリアル3%を中心に見ています。5%の未来が来たらうれしい。でも、5%にならないと成立しない計画にはしたくありません。
GPIFは現在、名目賃金上昇率を差し引いた実質的な運用利回り1.9%を、長期的に確保する目標を置いています。ただし、GPIFは国内外の株式と債券へ分散しており、個人のS&P500投資とは中身が違います。1.9%をそのまま正解として使うのではなく、自分の3%が楽観に寄りすぎていないかを見る参考にしています。
そもそも最初は、インフレを計算に入れていませんでした。S&P500の利回りだけを見て、その数字をそのまま将来に当てはめていました。ここ数年の物価の上がり方と円安を見て、名目のリターンをそのまま使うのは危ないと考えを変えました。為替は追い風にも向かい風にもなり、手数料と税金は手元に残るリターンを減らします。
個別株でも失敗しました。メタプラネットが大きく値下がりしたときに損切りしています。その経験もあって、今はインデックスだけでいいかなと思っています。大きく上がる銘柄を当てるより、計画を途中で変えずに続けられる方を選びたいです。
平均が同じでも、順番が違えば結果が変わる
利回りの話で、計算してみるまで軽く見ていたことがあります。
過去の年ごとの成績を見ると、大きく上がる年もあれば、マイナスになる年もあります。平均が5%でも、毎年きれいに5%ずつ増えるわけではありません。
ここで問題になるのが、暴落が来る順番です。
積立をしている期間の暴落は、安く買えるので長期的にはむしろ有利に働くことがあります。しかし、取り崩しを始めた直後の暴落は違います。減った資産から生活費を引くことになるので、元本が回復する前に削られていきます。
同じ平均利回りでも、暴落が前半に来るか後半に来るかで着地がまったく変わる。これがシークエンス・オブ・リターン・リスクと呼ばれるものです。
当サイトのシミュレーターは利回りを毎年一定として計算しているので、この振れは表現できていません。ここは割り切った部分です。だからこそ、悲観1%を一度は回してみて、それでも成立するかを確認する使い方をおすすめしています。
自分の場合、悲観1%で成立しないなら、無理に支出を削るより退職を遅らせると思います。FIREを早めるために今の生活まで苦しくすると、何のために計画しているのか分からなくなるからです。
一番怖いのは、取り崩す金額そのものより、画面に出る資産額が減っていくことです。計算上は大丈夫でも、実際に残高が減ったときに同じように考えられるかは分かりません。
長い目で見れば、成績は過去の平均へ近づくかもしれません。それでも、自分が積み立てている間や取り崩しを始めた時期の成績が、平均を下回っていることはあります。上回ることもあります。平均利回りは、自分の老後にそのまま約束された数字ではありません。
3つのプリセットを切り替えて、到達年齢がどれだけ動くかを見てみてください。特にコーストFIREは資産の複利だけに頼る形なので、想定利回りによって答えが10年以上振れることがあります。
参考にした資料
なお、ここに書いたのは過去の実績と公表されている目標値であって、将来のリターンを保証するものではありません。投資助言でもありません。判断はご自身の責任でお願いします。