コースト/バリスタ/サイド/完全 FIREの違い
最初にFIREを知ったときは、完全に働かなくていい状態のことだと思っていました。生活費をすべて運用益で出すなら、資産は1億円以上必要だろう。自分にはかなり遠い話でした。
あとからコースト、バリスタ、サイドという種類を知りました。ただ、4つを横に並べた表を見ても、自分がどれを目指しているのかはよく分かりません。
自分で計算してみて分かったのは、この4つは「必要な資産額の大小」だけでなく、何をやめるかが一つずつ違うということでした。そして、自分が本当にやめたかったのは労働そのものではなく、今の本業でした。

何をやめるかで分ける
収入を得る活動には、大きく分けて「積立」と「本業」と「労働そのもの」があります。この3つのうちどれをやめるかで、4種類に分かれます。
| 積立 | 本業 | 労働 | |
|---|---|---|---|
| コーストFIRE | やめる | 続ける | 続ける |
| バリスタFIRE | やめる | やめる | 続ける(社保あり) |
| サイドFIRE | やめる | やめる | 続ける(社保なし) |
| 完全FIRE | やめる | やめる | やめる |
上から順に、やめるものが1つずつ増えていきます。
コーストFIRE:リタイアは1日も早まらない
コーストFIREは、積立をやめる形です。すでにある資産を運用に回したまま、本業は定年まで続けます。
ここで注意したいのは、リタイアの時期は1日も早まらないという点です。60歳まで働くことに変わりはありません。変わるのは、毎月の積立をやめて、その分を今の生活に使えるようになることです。
最初に知ったときは、「それってFIREなの?」と思いました。今の仕事を60歳まで続けるなら、自分が欲しい早期リタイアとは違います。
ただ、パックンさんがFIREの「Retire」を「Relax」と置き換えていたのを見て、少し考え方が変わりました。早く仕事を辞めるのではなく、早く楽になる。積立をやめて今の生活に使えるお金が増えれば、働くストレスも少しは軽くなるかもしれません。そう考えるなら、コーストFIREもありだと思います。
もう一つ、コーストには構造上の弱さがあります。積立をやめた後は、資産の増加が運用リターン一本足になります。給与からの入金がないので、想定利回りの違いがそのまま結果に出ます。実際に試算してみると、利回りを1%と5%で切り替えるだけで到達年齢が10年以上動くことがあります。
利回りの置き方については実質利回りとは何かで詳しく書きました。コーストを検討するなら、悲観のシナリオで一度回してみることをおすすめします。
バリスタとサイド:日本ではここの差が大きい
バリスタFIREとサイドFIREは、どちらも本業をやめて、小さく働き続ける形です。海外の議論では、この2つはあまり区別されないこともあります。
ただ日本では、この2つの差がかなり大きく出ます。理由は社会保険です。
バリスタFIREは社保の付く勤め先で働く形なので、本人は第2号被保険者のまま、配偶者は第3号被保険者かつ健康保険の被扶養者になります。夫婦2人分の国民年金保険料と国民健康保険が、そのまま不要になります。
サイドFIREは社保のない個人事業や副業を想定するので、これらは自己負担です。
月額で比べると、その差はおよそ4.6万円になります。年55万円、20年で1,100万円ほどの違いです。同じ「月10万円稼ぐ」でも、それが給与なのか事業収入なのかで、家計への効き方がまるで違います。
意外だったのは、この差が厚生年金の積み上がりではなく、保険料を払わなくて済むことの方から来ている点でした。月10万円の給与で12年働いても、増える厚生年金は月6,400円ほどにしかなりません。
自分の数字では、バリスタFIREが一番早く出ました。結果を見たときは、「これなら実現できる。しかも10年くらいで」と、うれしくなりました。1億円を貯めて完全FIREするしかないと思っていた頃と比べると、急に現実の話になった感じです。
今の本命はバリスタFIREです。パートだけでなく、交代勤務や残業がなく、時間に余裕のある正社員も候補に入れています。大事なのは雇用形態より、今より楽に働けるかどうかです。
ただし、この月4.6万円には期限があります。**国民年金保険料も第3号被保険者も60歳までなので、60歳を過ぎると差は月1万円ほどに縮みます。**つまりバリスタFIREの利点は、60歳より前に本業をやめられる人ほど大きくなります。到達年齢が60歳を超える場合、サイドFIREとの差はほとんど残りません。詳しい計算はバリスタFIREで配偶者の保険料がゼロになる仕組みに書いています。
完全FIRE:全部を資産と年金で賄う
完全FIREは労働そのものをやめる形です。生活費のすべてを、資産の取り崩しと年金で賄います。
当然ながら必要な資産額が最も大きくなります。加えて、65歳までは年金がないため、その期間をすべて資産で埋めることになります。60歳から65歳の5年間をどう埋めるかについては60歳から65歳までの無年金期間をどう埋めるかで扱っています。
今でも完全FIREへの憧れはあります。ただ、仕事を辞めても、結局は好きな洗車やコーティングをやっている気がします。何もせずに暮らしたいわけではなく、やることと時間を自分で決めたい。その意味では、完全FIREにこだわる必要はなさそうです。
どれを選ぶかの前に
4つを並べて計算してみて感じたのは、「どれが正解か」より先に、自分がやめたいのはどれなのかを決める方が早いということでした。
積立をやめたいのか、本業をやめたいのか、働くこと自体をやめたいのか。この3つは別の願望です。
自分の場合、やめたかったのは本業の方でした。製造現場の交代勤務なので、生活のリズムが定期的に崩れます。眠れない時期があり、そこから体調の方も崩れていきます。有給も、取りたいときに取れるとは限りません。
きついのは仕事の内容そのものより、睡眠と時間を自分で決められないことの方だと、書き出してみて気づきました。
逆に言えば、働くこと自体に抵抗はありません。日中の決まった時間だけ働くのなら、むしろ構わないと思っています。そこがはっきりしてから、コーストFIREと完全FIREは自分の選択肢から外れました。積立をやめても交代勤務は60歳まで続きますし、働くのを完全にやめる必要もないからです。
配偶者には「3,000万円くらい貯まったら、今より楽な仕事に転職したい」と話しています。FIREという言葉より、この伝え方の方が自分たちの目標には近いです。
本業を辞めた後は、起きたい時間に起きて、コーヒーを飲んで、ゲームをする。天気がよければ洗車をしてもいい。特別に豪華な生活ではありません。時間を自分で決められるだけで十分です。
だから、FIREを早めるためでも、過度なストレスを感じるほど我慢するつもりはありません。今使うお金を減らせば、FIREは早くなり、完全FIREにも近づきます。でも、配偶者や子供がいる家庭で未来だけを優先すれば、家族の負担も増えます。
自分が4種類から選ぶ基準は、今と未来のバランスです。何歳で辞められるかだけでなく、そこへ着くまでの生活を無理なく続けられるか。数字を並べた後に、最後はそこを考えたいと思っています。
自分の年齢・年収・資産を入れると、4種類それぞれの到達年齢が同時に出ます。並べて見ると、自分にとってどこが現実的な線なのかが見えてくるはずです。
参考にした資料
- パックン流「Financial Independence, Relax Early」の考え方(Web eclat)
- 国民年金の第1号・第3号被保険者(日本年金機構)
- 短時間労働者への社会保険の適用(日本年金機構)
なお、ここに書いた区分は一般に使われている呼び方を整理したもので、公的に定義されたものではありません。試算の前提や金額についても、判断はご自身の責任でお願いします。